オーダーメイド:世界に1つしか無い物を作りたい
『はじめまして。思い切ってメールでご相談させていただきます』
それは2011年3月11日の東日本大震災の津波で、ご両親と8歳の甥っ子さんを亡くされた方からの長い長いメールでした。
この時9月。あの大災害からまだ半年も経っていないこの時期に、被災された宮城県からお問い合わせがあるなんて・・・。
信じられないような気持ちで一気に読みました。以下抜粋します。
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『両親と甥を含め、親族は合計8人亡くなりました。実家の家屋も、ガレキすら残らないほどすっかり流され、家族も思い出も、ふるさとの景色も、全て、あの津波によって心の中だけのものとなってしまいました。
自分たちも宮城で被災しており、8人も死んだというのに、こちらはこちらで生きることに必死で、次々と見つかる身内の遺体を目にしても、ただ呆然と眺めるだけで、きちんと悲しむこともできないまま現在に至っています。。。。
先日、生命保険会社から連絡を頂き、亡き父が、私の名義で医療保険に入ってくれていたことが分かりました。私が高校生の頃、20年以上も前に入った保険で、私が嫁いだ後も、少ない自分のお給料から支払いを続けてくれていたことが分かりました。そんな中で、判明したこの保険からは、わずかながらの解約返戻金が私の手元に残ることになりました。
そのお金を、私はどうしても自分の生活のタシにするような使い方はしたくなく、ずっと悩み続けていたのですが、ある日、「形見すら残っていないのなら、このお金を形見にすればいい」と思い立ち、常に身に付けていられるアクセサリーがいいのではないかと思うようになりました。。。。。。。
世界に一つしかないものを身につけられたら、きっとこの被災地でも心を強く持って前進できるのではないかと思っています。』
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ご依頼主さまと私はお会いすることは叶いませんでしたが、何度もメールでやりとりの末、ご両親とご依頼主様の誕生石とイニシャルを刻んだ3本のラインをクロスステッチでしっかり繋いだデザインに行き着きました。
完成後、ご依頼主さまよりいただいたお言葉です。
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『被災者との関わりである今回の制作はぜひ、林さまの足跡として残し、世に知らしめるべきと思っています。
私の相談内容、事情も、すべて林さまのHPで使ってください。』
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とにかく誠心誠意、ご依頼主さまをお元気付けられるよう一生懸命やらせていただいたのは確かです。ですが私にはどうしても自分のホームページでご紹介することにためらいがあり、なかなか掲載することが出来ませんでした。
私とのやりとりの中でお客様は少しずつ元気を取り戻してくださったようにも感じました。
そして、お納めした指輪はお客様の大切な形見の品となりました。
ジュエリー。
それは生活にはまったく必要のない嗜好品です。
あの震災の直後、私はこのような仕事をしていていいのだろうか?と自問自答していました。自衛隊や医者のような仕事が羨ましかった。どうして私はそういう人を助けることが仕事を選んでいなかったんだろう、と。
そのような時期にご依頼をいただいたこの作品は、実は私を救ってくれた作品でもあるのです。
今ここに掲載することが出来て、ようやくやり終えることが出来たと感じています。
3年かかりましたが私がこうしてひとつ山を越えられたように、ご依頼主様を始め被災された皆様が少しずつ前へ進めているならば本当に嬉しく思います。
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こちらのページは2014年6月に当店の別サイトに掲載していたものです。