本日、2026年夏、合成ダイヤモンドについて私なりの情報発信をしておこうと思いパソコンに向かっています。タイトルは少しギョッとするような表現ですが、この業界に長く携わってきた私に自然に浮かんできた表現です。
2017年に書いた私のコラム「メレダイヤのスクリーニング、天然と合成ダイヤの判別について(c31)」、この頃は合成ダイヤの判別がまだ確立されていない時で、ひたすら合成と天然のダイヤが混ざることによって、業界が混乱してしまうのではないか?という疑念から書いたと記憶しています。その後、スクリーニングする機器が開発され、また鑑定機関のご尽力もあり、今のところ混乱は避けられてきていると感じます。ですが、ここに来て合成ダイヤモンドの存在が非常に広がって来ているので、今の状況を私なりにコメントしてみたいと思います。
天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの違い
まず、一般の方にもわかりやすく解説します。両者は鉱物的な特徴、例えば硬さ、光の屈折率などは全く同じです。どちらにも同じように鑑定書も発行されます。では、違いは何でしょう?
天然ダイヤモンドは地球の深部において何億年という歳月にわたる地質学的プロセスを経て生まれた結晶。それをジュエリー仕様に研磨されたもの。歴史は古く紀元前からその存在は認められています。
合成ダイヤモンドは人の手によって研究室や製造所で作られた結晶。その後ジュエリー仕様に研磨されたもので、ラボグローンダイヤモンド(Laboratory Grown Diamond=研究所で成長したダイヤ)などと呼ばれることが多いです。
ダイヤモンドの類似石・代替石であるキュービックジルコニア、モアッサナイトなどは硬さや屈折率も違う全く別の石で、プロがルーペ、屈折率判定、顕微鏡などで見ればわかるレベル。それに比べて合成ダイヤと天然ダイヤは判別不可能です。
合成ダイヤモンドの進化
さて、合成ダイヤモンドはどこで作られているのでしょう?その多くが中国で生産されています(*)。
以前は大きい結晶を製造することが出来なかったのですが、ここにきて2ct、3ct、それ以上の大きい結晶を製造することが可能になり、またクオリティも安定してVS、VVSクラス、色も無色の物を効率的に生産することが出来るようになってきています。 確かに出回っている鑑定書付きの合成ダイヤ(ラボグローンダイヤ)はクオリティが非常に高いものが多いです。
GIAをはじめとする多くの鑑定機関が合成ダイヤモンドに対しても鑑定書(鑑別書ではなく鑑定書)を発行していることもあり、米国などでは市場に出ている半数ぐらいのダイヤモンドジュエリーが合成ダイヤモンドである、という統計もあるようです。
ここに来て日本でも老舗のジュエリーメーカーなどが取り扱い始めていることもあり、合成ダイヤモンドに対するネガティブな印象は少なくなって来ているのかなと感じます。当店にも合成ダイヤを使ったオーダーメイドの依頼や問い合わせがとても増えています。(当店の合成ダイヤの取り扱いについては最後に述べています)
*CGL通信「中国河南省、宝飾用合成ダイヤモンドの製造会社を訪問して」
価格について
市場に一番影響を与えるのは価格です。当初は製造に時間がかかることもあり天然の3割ぐらいしか安くありませんでしたが、今は短時間に大きいものが生産可能になっており、同じグレード、大きさの合成ダイヤは天然ダイヤの1/10もしくはそれ以下の価格になってきているようです。
私の懸念その1
ダイヤモンドの需要と供給
実は天然ダイヤモンドの埋蔵量はその他の色石に比べて一番多いと言われています。そのダイヤモンドの需要と供給を長い間コントロールし、ダイヤモンドの価値を安定させてきたのがデビアス(*)ですが、ここにきてその力を失ってきていると言われています。
さて、この一番多い埋蔵・採掘量の天然ダイヤモンドに加えて合成ダイヤモンドの登場です。 トータルの供給量が爆増し、加えて合成ダイヤモンドの価格が低いことで需要と供給のバランスが崩壊、ダイヤモンドの総体的な価格と魅力が下がってしまうのではないか、と考えるのは私だけでしょうか?
*デビアス社とは、南アフリカ共和国発祥でイギリスに本社を置く企業。現在はアングロ・アメリカンの子会社。1881年に設立後、工業用、宝飾用ダイヤモンドの採掘・加工・流通などをおこなう企業に成長。一時は世界中のダイヤモンドのシェアの9割ほどを握り、ダイヤモンド産業の発展、価値や地位を高めるのに貢献した。
私の懸念その2
合成と天然が混ざってしまい市場を混乱させる可能性
制作現場にいる私が感じた一番の不安です。今は大きい合成ダイヤモンドにはガードルにレーザ刻印が施されていて分別化が可能となってはいますが、小さいダイヤやメレダイヤには刻印はありません。今後そのようなレーザー刻印のない合成と天然ダイヤが混ざってしまった場合、店頭で判断することは今のところ不可能です。
私の懸念その3
合成ダイヤモンド、どこまで安くなるか?
はっきり言って私には分かりません。ということでAIに聞いてみたところ答えは次の通りでした。
「結論から申し上げますと、合成(ラボグロウン)ダイヤモンドの価格は、今後さらに安くなります。」
「将来、買い取店に持ち込んだ場合、天然と合成の区別が付かないメレダイヤの査定は全てゼロにならざるを得ない。」
だそうです。どこまでAIを信じてよいかわかりませんが、総体的にダイヤモンドそのものの価値が下がり印象が悪くなる、という恐ろしい未来を想像してしまいます。
今後のダイヤモンドとの付き合い方
これからはダイヤモンドの価値は低くなってしまうので買わない方がいいのでしょうか?
いえいえ、私は全くそうは思いません。
ダイヤは一番硬くて屈折率も高く、一番キラキラする石。美しさはナンバーワンです。その大きな石が安価で手に入るようになるということは嬉しいことでもあります。無色透明の石はどんなファッションにも合わせやすい。 今後もジュエリーに使用される石の中心であることは間違いないと思います。
業界が将来の混乱を避けるために心がけること
・業者側は出来るだけガードルにレーザー刻印のある合成ダイヤモンドを取り扱うように心がける。
・ジュエリーメーカーは、合成と天然の管理を徹底し、悪意の混合は決してないように。合成ダイヤモンドの商品には保証書の発行など、ダイヤモンドが合成であることをきちんと明記する。
・インターネットで合成ダイヤを取り扱う業者は、はっきりと分かるようにウェブサイトに表記する。 「天然と思って買ったら合成だった」、というネガティブな記事はダイヤモンドジュエリーそのものに悪い印象を残してしまう可能性がある。
・工場や製作現場では、預かった石が合成ダイヤである可能性を十分意識して石の管理を徹底するべし。
これからのジュエリーの魅力、私の予想
・天然ダイヤモンドの、特に大きい石は価値がそれほど落ちないと言われているが、鑑定書の重要性はますます求められるだろう。
・天然ダイヤモンド特有の内包物などが実際に見て取れる石や、アンティークカット等、その石の時代が分かるような要素や希少性が購買意欲に影響するかもしれない。
・今まではエンゲージリングと言えばほとんどがダイヤモンドであったが、色石がエンゲージリングの選択肢として登場する可能性がアップするかも。
・今までハイジュエリーとして持てはやされてきたような定番のデザインは衰退があるかも。
・石以外の要素、例えばデザイン性、独創性などに加えて、親からの受け継ぎや想いをデザインに込める、などの体験型ジュエリーが購入判断の要素に加わるだろう。
当店の合成ダイヤの取り扱い(2026年9月)
・お持ち込みの合成ダイヤモンド(主にセンター石としての仕様)での製作はお受けいたします。ガードルにレーザー刻印のあるものをお持ちください。
・1ct以上など、また色々な形の合成ダイヤを当店にてご用意することも可能です。
・合成ダイヤのメレダイヤの持ち込みは受け付けておりません。
・当店でお作りする作品に使用するメレダイヤは全て天然ダイヤのスクリーニング済みのものを使用いたします。
合成の色石に関して
合成ダイヤモンドの登場に対し、色石の合成石は実は昔から存在します。代表的なメーカーが日本の「京セラ」です。1975年にエメラルドの合成に成功してから沢山の合成の色石を生産してきています。綺麗な状態で発掘されることが少ない天然に比べ、合成は色も形も完璧で価格も安い。ただ、京セラの宝石市場への供給量は控えめにしているように感じます。京セラは実は昔、ダイヤモンドの合成にも成功していたが、宝飾業界を荒らしてしまうことを鑑みてジュエリー業界に参入しなかった、と聞いたことがあります。本当か嘘か?単に大きいものが生産出来なかったので小さい工業用ダイヤモンドのみ取り扱っていたのか?さて、真実はどちらでしょう?
最後に、合成ダイヤモンドに関してはまた新しい情報や開発があるかと思いますので、その都度追加発信して行こうと思っている所存です。私のコメントに間違いなどがありましたら、恐れ入りますがご指摘いただければありがたく存じます。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。