ジュエリーリモデルカウンセラーの仕事とは?(c53)

この記事は2015年にリモデル協会からの依頼で、業者様向けに書き、協会発行の小冊子に1〜3と連載していただいたものです。
ジュエリーリモデルカウンセラー2級、1級の求められている仕事はどんなこと?そんなことを自身の経験をもとに書きました。
業界の中にいらっしゃる方、そしてこれからリモデルをしようかな。。と考えていらっしゃるお客様にとっても、有益な情報もあるかと思い、私のホームページに残しておくことにします。

「経験」「センス」そして「人間力」

ジュエリーリモデルカウンセラーとしての私の基本姿勢

ジュエリーリモデルカウンセラーとしての大切な仕事のひとつは、ご相談にいらっしゃるお客様の昔話を聞くことです。
「これは昔、若い時に主人がプレゼントしてくれた物だわ」
「これは母がよく着けていたダイヤの指輪」
「これは一生懸命働いて初任給で買ったルビーの指輪」
満面の笑顔でひとつひとつのジュエリーに対する思い出をお話されます。

こちらは先日デザインさせていただいたお客様の作品です。ご許可を得てご紹介いたします。

お客様のTPOやファッションの好みなどを伺い、お手持ちのジュエリーの中から選ばせていただいたアイテムを使ってペンダントにリモデルいたしました。

リモデルを検討していらっしゃるお客様に対し、デザイナーは自分の好みのデザイン、店側は売上がかかっていますから高級感を勧めがちです。しかし私がリモデルを依頼された時にウェートを置いて考えることは、いかにお客様の満足度を満たすか、ということです。
ご提案するデザインは本当にお客様に似合っているのか?使用していただけるのか?いつもそこに立ち返って考える必要があります。
そしてほんの少しだけ冒険していただき、お客様のファッションの幅が広がるようなご提案(ドキドキ感)ができるよう努めています。

リピーターを獲得する為には、目先の売上にとらわれず、お客様の目線になることがとても大切です。きちんと納品する為に、お客様と自分との間でイメージのズレが無いよう、必ず実物大のデザイン画で確認します。

シンプルからデコラティブな物まで、お客様のテイストや想いをギュッと詰め込んだ『自分ジュエリー』は究極なセレブの楽しみですから、このワクワク感を体験していただきリピート客になっていただけるよう努力しています。

ジュエリーリモデルカウンセラーという仕事に行き着くまでの経緯

前職は宝飾メーカーで制作に携わっておりました。メーカーで作る商品は小売店に卸す物、つまり不特定多数のお客様に好まれる物、無難な商品でもあるということなので、当時はエンドユーザーの満足度を実感することが出来ませんでした。

『インターネットを通じてジュエリーリモデルやオーダーメイドのご注文を受けられないか?』 疑心暗鬼ながらサイトを立ち上げたのは10年前(2003年)。当時はホームページを見てジュエリーを依頼しようと思う方はほんの一握りで、ホームページの数もほとんど無いというような状況でしたが、今は『ジュエリーリモデル』、『オーダーメイドジュエリー』と検索するとたくさんのサイトが出てくる、すっかり人気のキーワードとなりました。

現在はそれぞれのお客様のご要望や好みに合わせて制作し、完成後の喜び、感謝の言葉をいただけるようになり、以前には感じる事の出来なかった達成感を味わうことが出来るようになりました。本当にそれが喜びです。

時を経てダイヤモンドはネットで購入される時代になりました。ジュエリーリモデル分野でも既成枠の利用など、誰でも提案出来る物は価格競争になり、差別化が要求される時代になってまいりました。ではリモデルカウンセラーに求められるさらなる価値とは何でしょうか?私は『経験』『センス』そして『人間力』だと思っています。簡単に身に付くものではありませんが、それぞれの工夫、取り組み方次第で無限の可能性を感じる部分です。お客様が安心してお任せくださり、幸せを感じてくださること、これが私の仕事のゴールだと思います。無機物であるジュエリーに、命はありませんが注いだ情熱と、お客様が愛でて可愛がってくださるお気持ちによって、そのジュエリーは、目には見えないパワーを宿したものへと変化するのだと思います。

ジュエリーリモデル、作品が完成するまでの流れ

ジュエリーリモデルが完成するまでの流れ(カウンセラーの仕事)は大きく分けると次のようになります。
お客様への対応 → デザイン制作 → 納品・フォローアップ

お客様への対応

リモデルをご検討されているお客様はさまざまな不安を抱えてご来店されます。お客様からよく受ける質問には次のようなものがあります。

「このジュエリーに付いている石は何ですか?」

ご自身で購入されておらず親から譲り受けたり、プレゼントされた物をご検討されているお客様に多い質問です。この質問に答える為には石についての知識や経験が必要ですが、私(鑑定士)は回答に自信がある物については「◯◯だと思います」という形でお伝えいたします。反対にたとえば翡翠やその類似石などすぐにお答えすることが難しい物や、お客様が何であるか確実に知りたいとご希望される場合には、鑑定機関で簡易鑑定を取る事をお勧めしています。安価で回答を得る事ができますし、お客様も安心して次のステップへ進めます。反対にまた「あえて聞かない」というお客様もいらっしゃいます。そのようなお客様にとっては石の真偽や価値よりも『さまざまな思い出が詰まっている』という私的な事の方が重要なので、「本物ではないかもしれない」などのマイナス要素がある場合、慎重に言葉を選ぶ必要があります。

「このジュエリーに付いている石は、リモデルする価値がありますか?」

これも非常にセンシティブな質問です。お問い合わせをいただいたということは、リモデルに意欲があるということですから、そのお気持ちを折るような発言は控えたいところです。しかし後々のトラブルを避けるためには伝えるべき事柄もあります。石がガラス等の模造品である場合などはもちろんですが、例えば費用を掛けてリモデルしても良い物にならないと思われる場合などもです。伝えるか否かの判断基準は『お客様がそのリモデルに満足するだろうか否か?』ですが、満足しないであろうと感じた場合には、注意深く言葉を選んでお伝えします。しかし価値というのはそれぞれのお客様にとってまったく違いますから、決してこちらの価値観で無理強いすることのないよう、伝えるべき事はお伝えし、後はお客様に決めていただければ良いと考えています。

お客様へのご提案

明確なデザインイメージを持ってご来店されるお客様の対応は、しっかりご希望をお聞きし、『出来る・出来ない』をはっきりお伝えします。お客様はたくさんの要求をしてきますが、「ご要望を全て受け入れました」結果「良い物が出来上がりませんでした」は絶対に避けなくてはいけません。

はっきりとしたプランの無いお客様の場合は感性を研ぎすまして対応することが重要です。じっくりお話をお聞きすることはもちろんですが、失礼にならないようお客様の外観を観察します。背丈や肌の色、どのようなジュエリー、お洋服やファッション小物をお持ちなのか?などです。さらに生活スタイルやリモデルの用途や目的などを伺っていくうちに、自然とお客様が納得してくださるような提案を導きだすことが出来ると思います。

「全てお任せします」というお客様の場合はデザイナーの腕の見せどころですが、ここでもやはりデザイナーの好みや派手さのみを押し付けることの無いよう、「お客様に似合うのは何か?」「幸せを感じていただけるのはどのような物か?」ということにいつも立ち返ることが大切だと考えています。

ほぼ全ての対応で料金のお話はなるべく最後にするようにしています。ワクワクするようなご提案が出来、「この人に任せてみよう」と思っていただければ自然と予算の枠が広がるのではないでしょうか。

デザインは無限にありますので、どんな提案をしてくれるのか?はお客様にとって非常に楽しみな部分です。『単に価格だけで比べる事が出来ない付加価値』として効果的にアピールすることができれば、他店との差別化やリーピーター確保に繋がるのではないかと思います

前回の号では僭越ならが私のお客様への対応をお話させていただきました。今回はその先のステップであるデザイン画のご提案、そして加工製作からフォローアップにかけてお話させていただきたいと思います。

デザイン→製作

当店では必要なお客様へはデザイン画をご用意いたしますが、タイプの異なるデザインを色々とお見せするのではなく、打ち合わせ時に煮詰めたイメージを元にしたデザインを2〜3パータンご提案するよう努めております。お客様の発する「シンプル」「おしゃれ」「エレガント」「個性的」などの抽象的な言葉が、実際にはどのようなものなのか?を会話の中で確認し、出来るだけ最終形に近いイメージにしておくことにより、何度もデザイン画を書き直すことを避けることが出来ます。お客様の中には定まったイメージがまったく無い方もいらっしゃいますので、そのような場合でもリングであれば指のサイズはもちろん、アームの幅や質感など、ペンダントであればどのぐらいのサイズ(場面)を希望しているのか?お体のどの辺りに着けたいのか?そしてどういった場面でお着けになりたいのか? などの基本的な情報をヒアリングし、出来るだけ最終形を導き出します。

デザイン画はお客様との打ち合わせに参加しない職人にとって唯一の設計図です。これを緻密に正確に描くことにより、お客様、デザイナー(場合によっては受託者)、職人が同じイメージを共有し製作スタートすることが理想と考えています。

デザイン、スタールビーのペンダント

製作途中での検品

当店には専属の職人が在中しており、製作過程の要所要所でデザイナーと仕上がり具合を確認しています。微妙な傾きや高低差、ツケ心地など、紙上では分からない部分をデリケートに調整するためです。これは一見とても面倒くさいように感じますが、この細かな作業を厭わないことで仕上がりの良さが格段に向上します。職人としては途中であれこれ言われるのは面白くないかもしれませんが、結局修正ややり直しが発生せず、時間的にも労力的にも非常に効率的だということを理解してもらえました。そしてこの妥協しない姿勢は必ず作品に現れ、お客様にも伝わるのだと思っています。

納品、フォローアップ

お客様は出来上がりまでワクワクドキドキしながら待っていてくださいますので、作品がデザイン画どおりに出来上がり、自信を持ってお客様に納品することができるということは、制作者にとってはなによりの喜びです。

さらに当店ではリモデル前のジュエリー画像を納品時にお渡ししています。「以前のリングはこんなだったわね」と感激もひとしおのようです。

この「ビフォーアフターを画像で残しておく」ということは、新たなお客様への提案資料にもなりますので是非お勧めいたします。ただしここで気を付けておかなければいけないことは、お客様にお納めした作品はお客様の所有物ということです。ですから資料として使わせていただく際には、個人情報として慎重に取り扱わなくてはならない、ということは言うまでもありません。

当店ではリモデルをしていただいたお客様にアンケートをお願いしています。接客について、デザインについて、価格についてなどざっくばらんにご意見ご感想を伺っています。なかなか直接言いづらいことも改めてアンケートでご返信いただくと、意外な事実を知る事ができとても興味深いです。

最後に。。。

リモデルは出来上がった物を買うだけでは味わえない物品を介した体験型のサービスだと思っています。私がお客様に提供したいのは、ジュエリーの完成度から得られる満足感も含めた『心地よい体験』であり、これを1度でも味わって頂けた客様は必ずリピーターになってくださると思っております。
コラム:ジュエリーリモデルカウンセラー試験官着任のご報告(c37)
コラム:ジュエリーリモデルカウンセラー1級面接官を経験して(c38)