ダイヤすり替え:東京高裁も認定 伊勢丹に賠償命令(2007年10月31日毎日新聞)
ダイヤモンドをリフォーム依頼するときに心配になってしまうこと、それは出来上がってきた指輪のダイヤモンドが本当に元の自分のダイヤかどうか?ということ。長くジュエリーリフォーム業を営んでおりますが、たまにお客様から質問されることがございます。
以下は2007年に実際に伊勢丹百貨店であった事件です。また最後に当店ではこうしたことを防止するために対応している事を掲載しております。どうぞ安心してご依頼いただけますように。
ダイヤモンド(約2.2カラット)の指輪をリフォームに出したところ、人工石(キュービック・ジルコニア)にすり替えられたとして、東京都内の女性が大手百貨店「伊勢丹」に慰謝料などを求めた訴訟で、東京高裁は30日、1審・東京地裁に続きダイヤの返還と120万円の支払いを命じた。
西田美昭裁判長は「ダイヤは業者の保管中にすり替えられた」と判断した。
判決によると、女性は03年11月、伊勢丹新宿店で、結婚10周年に夫から贈られたダイヤの指輪をプラチナリングに変えるリフォームに出し、ダイヤを預けた。リフォームは伊勢丹の委託を受けた業者が担当した。
伊勢丹側は「預かった石はもともとジルコニアだった」と主張したが、判決は預かった石が6本つめに留められていたのに、引き渡されたジルコニアの傷は4本つめに留められて付いたと考えられると指摘。「人柄や生活状況から原告が偽っていたとは考えられない」と述べ、すり替えがあったと認めた。
そのうえで、女性が記念として指輪を愛用し、すり替えのショックで体調を崩したことなどから、慰謝料として100万円を認定。ダイヤを返還できない場合は、470万円を支払うよう命じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー以上報道抜粋ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
というのが報道で伝えられた内容なのですが私はにわかに信じがたいのです。
不審に感じるのは次の点。
- 伊勢丹にしても製作を委託された業者にしても、得になることは何もない。
リスクを犯してまですり替えるメリットがないので、その行為自体がありえない。 - ダイヤモンドのキズの数が証拠のように論じられたが、ダイヤモンドの石留め時にキズが付くとはあまり考えられない。
- 裁判長の判断理由『人柄や生活状況から原告が偽っていたとは考えられない』って?
前述の通り、伊勢丹側にも何のメリットもない行為です。
私の推理
いきなり結論から申し上げますが、伊勢丹側が主張している
『この女性(の夫)が最初にリングを購入した時点で、すでにキュービックジルコニアだった』
が真実だったのではないでしょうか?
女性はその事を知らぬまま、ずっとダイヤモンドと思って所有していらっしゃった。
リフォームを依頼された伊勢丹側はキュービックジルコニアだと分かったが、真贋判定を依頼されていないこともあり、お客様の機嫌も考えて指摘しなかった。さすがに石の大きさが2.2ctなら、伊勢丹も業者もルーペなど使わなくてもすぐ分かったはずです。おそらく預かり伝票にも『無色透明石』と書いたでしょう(もし『ダイヤモンド』として預かったのなら伊勢丹側に勝ち目はないですが、そんなミスを伊勢丹がするとは考えにくいです)。
キズはリフォーム前からあったが上手く隠れていて、リフォームで別のデザインにした際に露出したのか、キュービックジルコニアであればダイヤより弱いので加工時についた可能性もありでしょう。
お客様はそのキズに疑問を持ち、伊勢丹に連絡。そこで「実はダイヤモンドではなかった」と知らされた。
しかしお客さまは「伊勢丹がすり替えた!」と思い提訴。伊勢丹も最初からダイヤモンドではないと分かっていたので裁判に応じた。
・・・と、お客さまに悪意がないとするならこういう事だったのではないか?と推理してみました。
皆さんはどう思われますか?
実は当店でも・・・
実は私も似たような経験があります。
リフォーム希望でお持ちになったスリーストーンペンダントが、3psともキュービックジルコニアだったのです!お客様は長い間、ダイヤモンドだと信じていらっしゃいました。それもそのはず。老舗のジュエリー店で購入され、鑑別書もありましたから。
リフォームして娘さんにお譲りになろうと思っていたお品物です。本当にご指摘し辛かったのですが、このままにはできませんので正直にお話させていただきました。とても落胆されたお姿に私の心も痛み、今でも思い出しては辛い気持ちが蘇ります。
最近はそんなことはないと思いますが、昔は、消費者の無知を逆手にとって詐欺を働く悪徳業者もいたのでしょう。同業者として本当に許せない!!
それが何十年も経って「さぁリフォームしよう!」と心躍る場面で発覚するなんて、本当に悲しくなります。
ジュエリー購入でトラブルに遭わないために
最近ではある程度の大きさのダイヤモンドにはほぼ全て鑑定書が付いていますし、それを信頼して良いと思います。
ただ流通経路も様々になってきていますので、買取店などでご購入の場合は鑑定書と購入するダイヤモンドが同一であるかどうかの確認はした方が良いと思います。
カラット、直径などから判断できます。
このコラムでも再三同じ話をしていますが、結局のところ『ジュエリーは”人”から買う』なのです。
その人を信頼出来るか?、どれだけお客様のことを思ってくれる人から買うか?、これに尽きるのだと思います。
値段やブランド名、店構えなどから受ける印象を一旦取っ払って、その”人”と向き合ってみましょう。
相手はプロだと臆せず、積極的にコミュニケーションを取ってみましょう。
分からない事や気になる事は、どんな些細なことでも尋ねてみましょう。
その中で「この人にお願いしたいな」もしくは「あ、なんか嫌だな」という直感があれば、それはきっと正しい判断です。
ダイヤモンドのすり替えを防止するために当店の取り組み
・ダイヤモンドがすり替えられてしまうことがあるとすれば、それは①店側に悪意がある ②取次店の不注意 ③職人が一度にたくさんの作業をするために起きる悪意のない取り違え、などが考えられるかと思います。
当店は工房併設でエンドユーザー様対応の店ですので、基本的に大量に同じものを加工することはありません。またお預かり時にダイヤの品質、色、直径、特徴などをメモして鑑定書がなくても同一確認できるようにしています。以上により当店ではすり替え、取り違いが発生する確率は限りなくゼロに近く、またもちろん一度も起きておりません。
どうぞこういったことも加味しながら、安心して信頼のおける業者に発注されますようお願いいたします。