ジュエリーリフォームの現場から思うこと。業界誌に投稿した内容(c34)

2017年末、縁あってジュエリーの業界紙「JEWELRIST」へ記事を寄稿いたしました。業界、特にジュエリー製作に関わる方へ向けて発信したものですが、業界の現場や裏側を知っていただくことはユーザーの皆様にも有益だと思いますので、許可をいただき私のコラムでも紹介させていただきます。またこれは私のジュエリー人生を振り返る反省文でもありますので、どうぞご笑覧ください。

ジュエリー業界誌「ジュエリスト」表紙

きっかけ

Jewelrist 9月号で山口遼先生がお書きになられた「褌振り乱してどこへ行く???」の記事を拝読したことがきっかけで今回、Jewelrist代表の川村様より記事掲載の依頼を頂きました。私のような若輩者に何故?とは思いましたが、忌憚ない意見を書いて良いということでしたので、日頃より思うことを勇気を持って書いてみたいと思います。

それにしても山口先生の記事は、まさに私がいつも感じていたことばかりでした。先生は業界全体を俯瞰して述べられておられましたが、私は私の業務つまり、モノづくりの立場から一言申し上げたいと同時に、この業界に長くいる人間のひとりとして深く反省する機会にしたいと思います。

反省その1:実はずっと何を造っていいのか分からなかった

私はこの業界に入ってから一途にジュエリーのデザインや製作に携わってまいりました。業界への入り口は鑑定資格を取ったことでしたが、石ころがドレスを纏っていっぱしのジュエリーに変身する様に魅了され、ジュエリーのデザイン・制作を一手に引き受ける今のスタイルに至っております。日々、喜びや感動を感じながら仕事をしておりますが、この境地に達するまでには紆余曲折がありました。

独立する以前はメーカー勤務でしたので、私の携わったジュエリーを購入してくださるのは、実際ジュエリーを身につけるエンドユーザーではなく小売店や中間業者です。白状いたしますと私たちメーカーは当時、どんな物が売れるか?なんてまったく分かっていませんでした。戦略も無ければ市場調査もせず取り敢えずいろいろ作ってみて売れた物が良い物、ということであったわけです。

今更分析しても遅いですが、お客様はその宝石やデザインそのものが気に入って買ってくださった訳ではなく、「メレダイヤがたくさん付いていてお得」、「海外ブランドのコピー」「展示会やお店の人に勧められて」「値引率が高かった」など、ジュエリー自体の魅力ではない部分を要因として購入されたケースが非常に多くあったと思われます。山口先生のご指摘はまさにこの点であり、商品の満足度向上を目指すのではなく、さまざまな販売方法を工夫することにばかりエネルギーを傾けてきてしまったのです。

お客様の感性をくすぐるような商品は何なのか?お客様をワクワクさせるようなデザインはどんな物なのか?売れば終わりではなく、メンテナンスやその後の作り換えのご提案などに真摯に取り組んできたか?反省する課題は多いと強く感じています。

反省その2 : 品質に拘ってきたか?

バブル時代に大量に生産されたジュエリー達が買取店で売却され、リフォーム店で作り変えられているという現在の状況において、過去に高額で販売された商品の中にはまったく値が付かない、地金部分以外廃棄せざるを得ない、といった商品が非常に多くあり、ジュエリーリフォーム業に携わる我々を困らせています。

「トータル1ctも入っているのにこの安さ!」昔よく聞いたセールストークですが、もちろんその安さで提供出来る理由は粗悪なメレを使っている大量生産品だからです。しかしお客様はそのメレを再利用できると信じてご来店になります。「申し訳ありませんがこのメレダイヤは品質が悪く、新たに工賃をかけて作り直しても良い物ができません。」とお伝えしなくてはならない時の申し訳ない気持ちと言ったらありません。このような悪しきセールストークはジュエリー業界の信頼を下げてしまい、結果として今我々の首を締めているのです。

ですがお客様は大金をはたいてそれらのジュエリーをご購入されたわけですから、簡単に諦めるわけにはいきません。私の役目は、想いやメモリーが加わったそれらのジュエリーを今度は質、デザイン共に素敵なジュエリーにして送り出すことです。

中には少数ですが、非常に質の良い素材ばかりを使ったジュエリー類をお持ちのお客様もいらっしゃいます。ジュエリーは腐りませんから相場は変わってもすべて再利用が可能な商品です。このお客様は当店にお越しになり改めて、ご自身のジュエリーの価値を再認識されたことと思います。将来の作り替えをも視野に入れた物造りをしていたメーカーはどれだけあったでしょうか?丁寧に仕事されたジュエリーに接する度に頭が下がります。

反省その3 : 加工賃を値切るな!

お客様を魅了する物がどんなものであるか迷走する業界は、デフレと共に価格競争に飲み込まれます。そしてそれは職人に向かいました。少しでもコストを安くしたい依頼者は職人の工賃を値切りました。結果として職人はやる気を失い、本来であれば技術職で誇りを持ってできる職業であるはずなのに後継者がいないという状態になっています。これは非常に深刻な問題です。

ここで毎日作業台に向かう職人が何を考えながら作業しているかお話しましょう。彼らはその品物を作り終えていくらもらえるか?そのことばかりを考えて作業しています。同じ作業で以前は2万円貰えていたものが、今は1万円しかもらえない時代になりました。どうやったら同じ物を短時間で作れるか?そんなことをぐるぐる考えながら作業しているのです。そんな彼らから良い作品が生まれるはずがありません。

値切った結果として、最終的に出来上がった商品の上代は多少安くすることが出来たかもしれません。しかしそんなことを繰り返してきたこの業界が作り出す商品は、愛の無い魅力の無い物ばかりになっていないでしょうか?

私は出来上がった商品が手抜き商品かそうでないか、心を込めて作られた物かそうでないかが分かります。せっかく良い石が付いているのに、職人が嫌々作った商品はすぐに分かります。そしてそれはきっと実際にお金を払って購入するお客様にも伝わってしまうのだと思いますし、そんな後ろめたい気持ちで納めたくありません。

私は職人とは作業の話は非常に綿密にしますが、反対に工賃の話はほとんどしません。作業の間は「どうやったら良い作品になるか?」に集中して作業してもらいたいと思っているからです。そして綺麗事のように思われるかもしれませんが、一生懸命良い物を造るために掛けた時間や手間に見合った加工賃を支払いたいと常々考えています。携わるデザイナーや職人のやる気が失せないよう、心穏やかな環境で作業に集中できるよう、そのコーディネイトをするのが私の務めだと思っています。とは言っても職人も人間ですから調子の悪い時もあります。そんな時はいつも「自分の最愛の人にプレゼントするつもりで造ってください」とお願いしています。効果があるのか無いのかわかりませんが、職人はふっと緩んで笑ってくれます。

結局、工賃を値切っても売り上げは上がりません。売り上げをあげるためには良い商品を造る。シンプルですが私が導き出した結論です。

反省その4 : ジュエリー業界にある悪いイメージ

お客様の宝石店に対するイメージは残念ながら「騙されて良くない物を買わされるのではないか?」「高いものを買わされるのではないか?」「言いくるめられて断れなくなるのではないか?」だそうです。これは業界自体が作り上げてきてしまった悪いイメージですから大いに反省しなくてはなりません。

「高いと分かっていても信頼できるから百貨店で買います」と仰るお客様も多くいらっしゃいます。百貨店=誠実かどうかは分かりませんが、「少なくても偽物を買わされることはない」と、それがお客様の判断のようです。今日の日本でキュービックジルコニアをダイヤモンドと偽って売る店はさすがに無いでしょうから、そんなイメージがまだまだあるということに驚きます。

実際当店にお越しになるお客様でも、初対面では私に騙されるのではないか?言いくるめられのではないか?と表情がとても硬い方がいらっしゃいます。それを払拭していただくために私が実践していることは次の2点です。

①まず頭の中から売上金額のことを消し去ることです。「これを勧めたらいくらの売り上げになる」などと考えた途端にお客様のことが見えなくなります。お客様に似合うものや気に入る物が何かを探る作業より、頭のなかが数字でいっぱいになってしまいます。

②当店はデザインや加工を承る専門店ですが、出来ないこと、お客様にそぐわないと思うものに対してははっきりとそうお伝えするようにしています。あまりに私がはっきり言うのでびっくりされることもありますが、そこは真摯に説明して納得して頂きます。お客様の言う通りに何でもやりました→結果として良いものができませんでした。それは私とお客様の求めるものとは違います。

ジュエリーとは薄利多売する物ではなく、ひとつひとつ手間暇を掛け妥当な代金を頂いて納める『夢のある商品』だと思っています。ではそのような商品とはどのような物でしょう?一部の商品を除いてこれからのジュエリーはオーダーメイドやセミオーダーというような、お一人お一人のために誂える『体験』を付帯した商品にシフトしていくのではないか?と感じています。このようなニーズに応えるためには宝石やデザイン、加工の知識はもちろん、お客様のTPOやファッション、身体的な特徴に合ったものを提案できる“センスの良いコーディネーター的な人材”が必要でしょう。ですが何と言っても「この店は自分に似合う物、必要なものを真摯に一緒に探してくれる。そして何より嘘をつかない!」という安心感をお客様へ与えることです。この安心感がお客様に伝わり、コツコツと信頼関係を積み重ねると、自然にお客様はリピーターへ変わってくださいます。

お客様が宝石を買う時、「誰から買うか?」ということが大きなポイントだそうです。確かにどんなに気に入った商品でも嫌な人からは決して買いたくありません。ジュエリー業界に対しての悪いイメージが払拭され、良いイメージが醸成されるよう日々努めてまいりたいと思います。

最近の私

私がインターネットを経由して直接お客様から依頼を受けるこの業態を始めた15年ほど前は、ジュエリーリフォームやオーダーメイドは手間や時間が掛かるものとして多くの業者は敬遠していました。私自身、前例も無かったのでビジネスとしてやっていけるのか懐疑的でした。しかし時が経ち、今ではインターネットで【ジュエリーリフォーム】や【オーダーメイド】は人気のキーワードとなっています。つまりそれだけたくさんの方が興味を持ってくださっているということなのです。実際にジュエリーを身につけるお客様と直接繋がれるということは、満足度の高い商品をご提供することができるということです。これは私のやりがいや達成感を満たしてくれることにも繋がっており、毎日とても幸せな気持ちで仕事をすることができています。

最後に、不思議な話をしたいと思います。実は長くお客様に寄り添っているうちにできるようになったことがあるのです。それは、たまにですがダイヤモンドや色石達が「こんなアイテムにしてほしい!デザインにしてほしい!」と訴えてくるのをキャッチできるようになったことです。またお客様の持ち込む古いジュエリーからメッセージを受け取ることもあります。それはお客様と話をしている最中の時もあれば、デザインを考えている時、また出来上がって納品した後にお客様がメッセージを受け取り教えてくださることもあります。にわかに信じては頂けないでしょうね。本当に不思議です。

私はこの業界に育てていただきました。これからも感謝の気持ちを忘れずに、自分のスタイルを大切に進んでまいります。後継者がいないのは少し寂しいですが、少しでも業界の発展のために努力していきたいと思っています。

この度は私のジュエリー人生を振り返る機会を与えてくださったJewelristの川村様に感謝いたします。

以上「Jewelrist Jan.2018新年号」より

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◉販売員はおりません。デザイナーがお客様のお話を伺います。
当店のオーダーメイドは『お客様・デザイナー・職人がひとつのチーム』となってジュエリーを作るスタイルです。デザイナーが直接お話を伺い、お客様の想いを形にします。お客様の役目はプロデューサー。ジュエリー造りのワクワク・ドキドキを体験してください!
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◉自社工房を持ち、専属の職人が手作りいたします。
サロンの隣に工房を併設し、熟練した職人が1つずつ丁寧にお作りします。制作途中にデザイナーと職人が何度も話し合い細かくチェックするため、ハイクオリティなジュエリーが完成します。また外部業者へ委託しない分お安くできるというメリットもあります。
*コラム「どうして自社工房、専属職人なのか?」はこちら

◉実物大の精密なデザイン画を作成し、そのデザイン画とほぼ同じように実物をお作りします。
原寸大のデザイン画をお作りするのは、お客様と製作者側で共通のイメージを持つため。細部までしっかり確認してから制作に入りますので、出来上がりまで安心してお待ちいただけます。また出来上がった後、イメージと違う!といったトラブルを回避することができます。
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